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2012/11/05

ベストセラー翻訳の裏側

「朗読者」を一気に読み終わり、
とても良かったので感想を書きたいと思いつつ
次に手に取った本が面白すぎてまた一気に読んでしまいました。

ハリー・ポッターの翻訳者、松岡佑子さん著
「ハリー・ポッターと私に舞い降りた奇跡」。


翻訳の裏側…と言っても、この本は万人にお勧めしたい。
ひとつの自伝として、とても面白いです。

ハリー・ポッターのファンはもちろん、
通訳・翻訳を仕事とする方々
(松岡さんはもともと、MIIS等で教鞭をとるほどの同時通訳者です)、
頑張るためのモチベーションが欲しい方、
つらいことがあって立ち止まってしまいそうな方…
誰が読んでもヒントをもらえる本だと思います。

ハリー・ポッターは、
映画のシリーズ途中から仕事で関わってきたこともあり
翻訳本も原書も持っています。
映画も、後半にいくにつれハマったものでした。
でも、この本の方がハマってしまった。

松岡さんは、なんと福島県南相馬市のご出身。
同郷ということでまず親近感が生まれて。
ハグリッドの大らかな訛りは、東北弁を参考にしたとか。

映画化が決まったときの不安。
字幕の監修を依頼され、戸田奈津子さんに
「原作を読み込んでいる立場として、
セリフを変えさせていただくかもしれない」と伝えたエピソード。
「もちろんOKです」という戸田さんの謙虚な姿勢。
しかし、修正はプラスマイナス1文字以内で、という
クライアントからの厳しい制限。

ベストセラーとなり、気軽に著者と連絡もとれなくなって
訳語選びに苦労した話。
完結まで10年かかった長編ですから、伏線なども多く
真意が分からないと訳しづらいところが多々あったと思います。
でも、著者サイドが秘密主義を貫く中で
どうにか翻訳書を出し続けなければならない。

そこで、なんと世界各国のハリー・ポッター翻訳者たちで
チャットルームを立ち上げたそうです。
「ハリー・ポッター」は60数カ国で翻訳書が出されています。
その翻訳者たちがインターネットで繋がり、
いろいろな解釈をめぐり議論をし合ったとのこと。
このことは全然知りませんでした。
翻訳者たちのプレッシャー、熱意、
そして作品への思い入れが感じられるエピソードです。

作品を読む前にタイトルを決めねばならない、というのも
なんと厳しい条件だろう…と思いました。
内容に関する質問にも答えてはもらえない。
たとえば「half-blood prince」は
「half-blood」が差別表現になりうる国もある、と
翻訳者たちで著者にかけあったそうです。
「mysterious」という表現ならOKとこの時は返事がきて
日本版では「謎のプリンス」となったとか。


翻訳に関する部分を中心にメモしてみましたが
とにかく半端じゃない努力を重ねてきた方だということが
よく分かる本でもありました。
そして、旦那様の死をはじめとして
つらいことをいかに乗り越えてきたかという、その強さ。

全編を通して、旦那様への愛がひしひしと感じられました。
受け継いだ出版社を、何としても潰したくない。
そこで出会った Harry Potter という一冊の本。

奇跡のような、運命のような、
でもやっぱり切り開いてきたのはご本人の行動力。

様々な出会いが繋がって、思いを共有する仲間ができ、
大きなプロジェクトが実現していく過程はとても感動的で
偶然と必然は紙一重だな、と思えてきます。

ずっと手元に置いておきたい一冊となりました。

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なんだか、一気に寒くなってきた今日このごろ。
こたつは置かないようにしているのですが
ホットカーペット+毛布でもほぼ同じ効果がありますね…
心地よすぎる(>_<)
でも、そんな中での読書は至福のひととき。

毎年思うけど、大好きな秋はみじかいな。
さよなら秋空。

Akizora

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コメント

昨日から読み始めています
歯切れの良い無駄のない文章で、読むスピードが遅くなってきた私でも退屈せずにグングン読めます
著者が、うっちーさんと良く似てはる〜と思う箇所が幾つもあります
普通では知ることがないことをいろいろと知りました
とっても楽しく読んでいます
一気に読んでしまうのは惜しいので、ゆっくり味わいます
教えていただいて嬉しかったです

投稿: 明美 | 2012/11/11 12:55

>明美さん

わ、読んでらっしゃるんですね。
また感動を共有できそうで嬉しいです(^^)
似ているなんて恐縮すぎますが…
でも共感できるところはたくさんありました。

ここまで努力できるというのは
本当にひとつの才能ですよね。
そこはとてもとても追いつけないですし
私はもっとずっと弱い人間ですが
少しでも見習いたいなと思いました^^

投稿: うっちー | 2012/11/11 15:18

>「原作を読み込んでいる立場として、セリフを変えさせていただくかもしれない」

翻訳に携わった方なので、当然原書は読まれておられますが、以下のようなサイトの記述を目にすると原文理解に乏しい部分が多々あることがわかります。

http://wiz.gnk.cc/hpmystery/store/s_1.htm

認めるべきところは素直に認め、少しでも良質な日本語訳が読者に届けられるようにしてほしいです。

投稿: K太 | 2012/11/12 12:17

>K太さん
はい、この類いのサイトは存じておりましたし
私自身も翻訳に関して感ずる部分がなかったわけではないです。

ここでは、あくまでもこの自伝本に関しての感想のみにとどめようと思いました。もちろん、より良い翻訳書が増えていくことを私も願っています。

投稿: うっちー | 2012/11/12 12:40

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