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2012/10/09

JATアンソロジーに寄稿しました

9月30日の「世界翻訳の日」を記念し、私も会員となっているJAT(Japan Association of Translators)からアンソロジーが発行されました。

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「Translator Perspectives/翻訳者の目線」と題された冊子の中では、59名の翻訳者が様々な視点から翻訳について語っており、非常に個性豊かで興味深く読み進めています。知人の文章も多いのですが、「あの方はこんなことを考えていたのか…」などという発見も楽しいです。

発行後はブログへの転載もOKとのことだったので、拙文ながら自分のものを載せておきます。この仕事を始めて6年、まだまだ学ぶことばかりで仕事に対する考え方も日々変化しているように思いますが、2012年現在の記録として。

諸先輩方に交じって大口たたいており冷や汗ものですが、自分なりに頑張っていきたいなと心を新たにしました。

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言葉を繋ぎ、人を繋ぐ


『バベル』という映画がある。国家間の摩擦をはじめとして、人間同士の間に往々にして立ちはだかる高い壁が描かれている。「言語を分かたれた人間たち」が右往左往し、時には誤解が生まれ途方に暮れる。壁を切り崩していくには、背景も含めて相手を理解した上で、心を伝える必要があるということがよく分かる。そのために言葉が果たす役割は非常に大きい。分かたれた言語の対象として、聴覚障害者が登場するのも興味深い。

字幕翻訳の仕事を始めて六年。小さな頃から外国映画を通して異国の文化に触れるのが大好きだった私にとっては、楽しい仕事だ。「映画字幕は翻訳ではない」と清水俊二氏も仰っていたとおり、字幕はいわゆる翻訳とは少し性質が異なる。厳しい字数制限があるため、会話の流れやストーリーのエッセンスを汲み取り、一つ一つの短いセリフに凝縮していく。書くのは文章ではない。そして映像が様々な要素を補完してくれる。

自分の文章力が落ちていると感じたのは東日本大震災の時だった。何かできることを、と思ってボランティア翻訳を引き受けたものの、自然な流れの文章を書くのにひどく苦労した。これで翻訳者といえるのかと自問自答した。様々な場面で、言葉が果たす役割の大きさを痛感した時期でもある。私にも、もっと実用的な専門分野があったら何か役に立てたかもしれない。こんな事態に対応できるだけの底力を身につけたいと思わされた出来事だった。

震災を機に、視野を広げて他分野にも挑戦し始めている。楽しいこと、やりたいことを仕事にしたいという思いから、求められること、必要とされることにも応えられるようになりたいという思いに変化しつつある。もっと自在に言葉を操れるように。相手を理解し、心や知識を伝え、様々な壁を取り払うような翻訳ができるようになりたい。それが時には危機を救い、文化を繋ぎ、果ては人を繋いでいくものなのだと感じている。

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コメント

私のように平凡な毎日でも言葉の難しさをしょっちゅう感じています。文章を書く事は少ないですけど、普段の会話のなかで自分の気持ちの伝え方に悩むことがあります。誤解も多いです。言葉は一生の勉強だと思います。一瞬でぐっと相手の心を捉えるような殺し文句も言えたら素敵ですね。

投稿: あけみ | 2012/10/11 06:03

> あけみさん

本当にそうですね。
言葉は難しいなという思いは
年と共に強くなっている気がします。

人それぞれ、受け止め方も様々だから
完全に何かを伝えるのは無理かもしれませんね。
でも、その中で心を尽くし最善を尽くして
少しでも大切なものを伝えていきたいと、
仕事だけでなく日常の中でもよく思います。
一生あがき続けるのでしょうね、きっと。

投稿: うっちー | 2012/10/13 22:02

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