字幕翻訳界の大御所3人が語る、映画と字幕
新年のご挨拶もしていない…すみません。
またしばらくは、思い立った時に書いていきます(^-^;)
色々と報告したいことを放置したままなのですが、今日のとっても楽しかったイベントについて電車で一気にメモ。『字幕翻訳者が選ぶオールタイム外国映画ベストテン』出版記念イベントに、同業の友人知人たちと参加してきました。帰りに一緒に飲んだだけで10人ほどいましたが、こんなに字幕翻訳者が来ているとはおそらく想定外だったはず。一般向けのイベントでしたし、そんなに濃い話を聞けるとも思わず、友人に誘われて気軽に参加。
戸田奈津子さん、菊地浩司さん、石田泰子さんのお話が聞けるというだけで、映画ファンとしてはワクワクです。映画愛にあふれている人の話を聞くのはそれだけで楽しい。でも、意外に濃いお話が聞けて、映像翻訳業界の展望を考えるきっかけにもなるイベントだったと思います。
「行きたかった!」という声をたくさん聞いていたので、少しだけレポを。
戸田さんの師匠、清水俊二さんが立ち上げた映画翻訳家協会についてのお話から始まりました。いつも孤独に仕事してる同業者同士、情報を共有したり、ご飯を食べたりしようということで立ち上げたとのこと。どこかで聞いたような…(笑)会員は現在20名、というところで隣に座っていた同業の友人と思わず笑ってしまう。
この会の存在は知っていましたが、本当に閉じた世界だなぁと。でも、ちょうど劇場映画はこのくらいの人数で足りる、と言われているレベルの人数です。なるほど。
のちに、「その会で新人を育成したり、広げていこうという動きは?」という質問が出ましたが、「そんな余裕はないんです!」と正直すぎる答えが返ってきて、むしろ爽やかでした(笑)。まあ、足りているということですよね。自分たちで精一杯だと。
菊地さんはアクション映画の担当が多い方ですが、みんなが「今回は2000枚〜」などとうなってる時、「俺は500枚」などということがあり、羨ましがられているとか。しかも「行け!」とか「撃て!」とかいうシンプルなセリフが多い。これは一作品の字幕の枚数ですが、映像翻訳は作品の時間単位で支払われるので、セリフが少ないほどお得という話です。
ただ、少ない字幕は、セリフとセリフの間が空くから一つ一つが目立ち、下手に見えやすいという話もされていました。それには皆さん同意。
合間に、作品や監督についての四方山話も入ります。見事なほど脚本に無駄がないのはヒッチコックだとか。
アテンドを多くされている戸田さんからは、俳優と監督の比較のお話も。人間的に面白いのは断然、監督。知識がすごくて話題も豊富だと。スピルバーグの初期作品「激突」のことを、「追突」とか「衝突」とか仰ってたのが個人的にツボでした。もちろん訂正されましたが。
あとは映像がギリギリまでこないという最近の事情。海賊版の問題も深刻ですしね。「猿の惑星」は、字幕をつけている時点で猿が一匹も出て来ず、全部人間だったとは戸田さんのお話。人間が真剣に猿を演じていて面白かったと。
顔の部分が全てくり抜かれた映像が来ることなどもあるそうです。これは初めて聞きました。私が受ける仕事などでは、解像度が低く白黒で、画面に大きな×印が入ったものが来ることが多いかな。いずれにしても、小さいし見づらいんですよね。
コンピューターは「電脳」にしよう!と、文字数制限に苦しむお話も。最近ではフェイスブックなども困ると。この辺は皆さんもよく聞く話かと思うので省略。
いくつか、例題も出してくれました。印象に残った戸田さんからの出題を一つ。
----------------------------
★「Less is more 」を4-5文字でどう訳しますか?★
どうぞやってみてください~。
直訳すると「過ぎたるは及ばざるがごとし」というようなニュアンス。
参加者の方の案がどちらも上手かった!
↓
「足るを知れ」
これは、実際には若い人に通じないからNGになる可能性が高いというお話も出ました。確かにそんな気がします。でも、「そこで若い人も言葉を覚えていけばいいじゃない」と戸田さん。ごもっとも。
「欲張るな」
これは普通に使えますね。
こういう、シンプルなセリフこそ難しいというお話には心から同意でした。
----------------------------
名台詞と名訳の違いについてのお話も。これはよく字幕関連の本でも触れられますが、勘違いされていることが多いんですよね。例えば「人生はチョコレートの箱のようなもの」は、もともと原文がそう言っているのであって、別に名訳ではない。元のセリフが良いだけ。
名訳の例は特に出ませんでしたが、うーん…例えば有名どころだと「君の瞳に乾杯(原: Here's looking at you, kid.)」あたりかな。あとは「明日は明日の風が吹く(原: Tomorrow is another day.)」とか。ただ、最近はこのような訳はやりづらくなっているだろうなと想像します。英語が少し分かる人が増えているので。
今後の展望としては、3D は吹き替えになっていくだろうと菊地さん。吹き替えは昔はディズニーくらいだったのに、今は字幕と半々くらいの割合まで増えている。また字幕についても、コスト削減&時間短縮のため、アメリカにいる日本人(字幕のプロではない)を使ってハリウッドで字幕をつけてしまうようになっていくかもしれない。劇場映画ではまだないけれど、DVDなどでは既に実行されているとのこと。世界同時公開などが増えていくと時間的にも厳しいので、この動きは進んでいくかもしれないとのお話。
ラストは、「字幕界にも黒雲が立ちこめていますねぇ…」と非常に現実的な〆でした。でもその通りだと思いますし、綺麗ごとばかりでないお話が聞けてとても面白かったです。
映画と字幕にまつわるお話を聞くのは本当に楽しくて、あらためて私は映画が好きだなぁと思うと同時に、映像翻訳業界の動向についても自分が危惧していたとおりだなと再確認できました。もちろん私は劇場映画などとは遠いところにいますが、劇場以外はさらにひどい状況です。これについてはブログ記事を下書きしたこともあるのですが、悩んだ末に公開していません。
端的に言えば、その仕事だけで余裕をもって食べていける、家族を養えるだけの収入が得られないような業界は、はたしてプロの職業として成り立っているのだろうかという話です。今日一緒に飲んだ同業の方も同じことを仰っていたので、ちょっと書いちゃいました…いつか、思い切り書いてみたいものですが。
何はともあれ、本当に楽しいイベントでした!
そして、たとえ字幕を仕事として考えられない日が来たとしても、私は映画と共に生きてきたし、これからもそうだろうなと再確認できた日でもありました。第一線で頑張ってらっしゃるお三方は、本当に若々しくて輝いていましたよ~。映画が大好き、というのもひしひしと伝わってきました。
お会いできた皆様にも感謝です!イベント後の語らいもとっても楽しかった(^-^)
そしてサイン本GET♪
勢いに乗って一気に書いたので読みづらいところが多々あると思いますが、読んでくださった方、どうもありがとうございます。だらだらと長くなってしまいましたが、少しでも雰囲気が伝われば嬉しいです。
| 固定リンク
| コメント (6)
| トラックバック (0)
最近のコメント