ロスで起きる交通事故をめぐる人間模様--。
「クラッシュってどんな映画?」と聞いたときに、返って来る答えは、
大体このようなものでした。
これじゃ全然内容がわからなくて、
観にいこうかどうか迷っていたときに、アカデミー作品賞を受賞。
それじゃ、ということでGO!
確かに、一言で言えるストーリー映画ではないです。
アンサンブル映画と言えばいいのでしょうか。
いわゆる、群像劇。
私は実は群像劇があまり得意ではないです。
登場人物が多くて、いろんなエピソードが盛り込まれると
すぐに混乱してしまう。
けれど、この映画は全てがスッと頭に入ってきました。
かなり登場人物は多く、入り組んでいるのに、見せ方が抜群に上手い。
脚本、そして編集の力なのでしょうか。
そして何よりも、大きなテーマとして「人種差別」が扱われています。
ここまですごいのか、という、日本人には想像し難い差別社会。
黒人・白人だけではなく、中国人やイラン人までもが登場します。
黒人の若い男のセリフが印象的でした。
「黒人が黒人を差別しないとでも思ってるのか?」
これは、私がタイを旅行したときにも強く感じたこと。
高級ホテルや高級レストランでは、
白人に対する態度と私たちに対する態度が、あからさまに違いました。
そしてまた、日本人を見ても、
アメリカほど目に見えて酷い行動はなくとも、
同じアジア人である中国人や韓国人に対する
差別意識を感じることが多々あります。
タイやベトナムも皆同じアジアでしょ、と言うと
向きになって怒り出す人すらいます。
滑稽ですね。
日本人って、アジア内においては自意識が白人って感じがします。
色々なことを考えさせられながら、1つ1つのエピソードを堪能しました。
涙が溢れてしまうシーンも多々あり、
胸をえぐられるような、リアルなエピソードが積み重ねられています。
そんな中で、ほっとさせてくれるエピソード、
「妖精さんのマント」・・・これは最高のお気に入り。
監督のポール・ハギスは、昨年アカデミー賞の主要部門をさらった
「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本家としてデビューされた方。
関わった作品が2年連続作品賞受賞って、すごいですよねぇ。
この映画は、監督自らが黒人にカージャックされた経験から生まれたそうです。
しかし、そこでカージャックする側の立場に立った映画を作るところが、
やはり凡人とは違う所以なんだろうなと思います。
この映画を観たあと、強く感じたのは
「人は一人では生きていけないのだな」という平凡なこと。
平凡だけど、都会にいると忘れがちで、なかなか実感しないことです。
この映画の中で起こる人種間の衝突(crash)も、
結局は人種ばかりが原因ではなく、「他者に対する警戒心・不信感」であり、
そう考えると日本でも十分共感を呼べる映画なんですよね。
地下鉄に乗っていて、「あの袋が怪しい」とサリン事件を思い出したり、
交差点を渡っていて、「いきなり刺されたらどうしよう」と思ったり、
そんな自分の日常を私も思い出しました。
俳優陣の演技が、皆素晴らしかったです。
特に、すっごい嫌な奴として登場するマット・ディロンの演技が素晴らしく、
時の流れを感じました。
私が小学校の頃観た、「アウトサイダー」のころは
すらっとした青春スター、アイドルという感じだったんですけどね。
消えて行くことなく、今やアカデミー賞にノミネートされる存在になるとは。
同じ「アウトサイダー」に出ていたダイアン・レインも、今や演技派熟女。
その頃好きだったジェニファー・コネリーも、一時期はもうだめかと思ったのに
数年前にアカデミー賞を受賞。
「フェリスはある朝突然に」の青春アイドル、マシュー・ブロデリックも、
今は舞台を中心に活躍しながら「プロデューサーズ」の映画化で注目されて・・・
やはり消えたのかと思っていたブルック・シールズは、
今度ブロードウェイの舞台「シカゴ」でロキシー役を演じるというし。
なんだか、私が映画に夢中になり始めた頃のアイドルたちが、
アイドルではなく演技派俳優として存在していることが、
驚きと共に嬉しさを運んでくれます。
その裏にあるであろう並々ならぬ努力を想像すると、
自分も頑張ろうと思えるのです。
なんだか色んなことに思いを馳せてしまいましたが、
大満足の映画でした。
作品賞、納得です。
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