« 「黄金の腕」 | トップページ | お悔やみ申し上げます »

2006/03/25

「ミュンヘン」−監督の勇気

以下、ネタバレを多分に含みますので、
これから観る方は読まないでください。

***********************************

恥ずかしながら私は、ミュンヘンオリンピック事件を知らなかった。
それを知ることができただけでも、この映画に大きな存在意義を感じる。
見終わって1週間が経つが、後からじわじわと効いてくる映画だ。


平和の祭典、オリンピックで起こった無残なテロ。
そのテロのシーンをはじめとして、
一連の殺戮シーンは今までにない残酷さ。
「プライベート・ライアン」が駄目な人なんて、絶対に無理だろう。

しかし、正視できないほどの場面だからこそ、
何も知らない私たちが、テロの恐ろしさや虚しさを実感することができる。
ホラー映画なんかより、よほど恐ろしい。

報復が報復を呼び、次第に皆が狂気に包まれていく様は、
怖く、しかし哀れで、やりきれない。

「シンドラーのリスト」がよく比較対象にあげられるけれど、
後味はだいぶ違うと思う。
この映画には、スピルバーグらしい甘く感傷的な場面がほとんどない。
(例えば、ラストでシンドラーが泣き崩れるようなシーン)

唯一、スピルバーグらしさを感じるのは、子供の撮り方かもしれない。
昔から、子供を撮るのがずば抜けて上手いと言われるスピルバーグだけれど、
この映画でもそれは健在だ。

大きなポイントは、あの少女(観た方なら分かると思う)を殺さなかったことだろう。

それこそ甘い感傷じゃないかと思う人もいるかもしれない。
でも、私はあのシーンに込められたのは「希望」だと思った。
残虐な殺戮を行う暗殺者たちの中の良心を描き出すことで、
未だ解決しない問題を抱える人間たちの中に存在する、
未来への希望を見出したのだと。

見出したというよりは、希望を込めたというべきか。


そしてまた、「パパ」の家で戯れる無邪気な子供たちも、
明るい陽の光とあいまって印象的だ。

テロ、そして報復という「死の連鎖」と並行して描かれる、
出産、子供たちという「生の連鎖」。

生と死の対比が強烈で、
殺し合いの虚しさが痛いほどに伝わってくる。

エリック・バナをはじめとする俳優陣の演技も素晴らしかった。
特に印象に残っているのは、
電話越しに、会えない自分の子供の声を聞いたときのバナの演技だ。
いろんな感情が波のように押し寄せてくる場面だった。

暗殺計画の実行場面などのスリリングな見せ方は、
まさにスピルバーグの本領発揮と言えるだろう。
つくづく、ああいう場面を撮らせたら右に出る者はいないと思う。
3時間近い上映時間も、あっという間だった。


ラスト、日本人にとっては何でもないラストかもしれない。
けれど、きっとアメリカ人にとっては鮮烈なラストなのだ。

そびえ立つ、今はなき世界貿易センタービル。
CGで再現されたのであろうその姿を見て、
果たしてアメリカの人々は何を感じるのか。
それを思うと非常に感慨深く、思い出すと胸が締めつけられる。

「報復だ、報復だ」と叫び続けるアメリカで
このような映画を作る勇気。
イスラエルやパレスチナ、関係者から非難の声が上がるのは当然で、
それらを全て覚悟して作ったであろう、この映画。

時間が経てば経つほどジワジワと迫ってくる力に、
私は圧倒されている。


原作はこちら。

標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録
ジョージ ジョナス 新庄 哲夫
4102231013

|

« 「黄金の腕」 | トップページ | お悔やみ申し上げます »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

映像で観るのは私は厳しそう…。でも、話自体は知っておきたい。だから、原作で読んでみようかな。今度会えたとき、詳しく感想を聞きたいです(*^-^*)

投稿: ミオ | 2006/03/26 09:20

ネタバレとゆーことで、まだみていないので、内容はよく読んでませんm(_ _)m
「ミュンヘン」の原作(というかルポ)を買ったのですが、あれは映画みてからの方がよさそうです。
まず登場人物や組織の名前が馴染みのない国のそれなので、誰が誰やらわからなくなりました…

投稿: ミコ | 2006/03/27 08:31

なんか、ココログが大規模メンテ中で、
いろいろと画面が変になってます・・・。
無事に書き込めるかな。

>ミオ

ミオにはちょっときつい映画だね~。
多分、虐殺シーンの監督の意図は
「プライベート・ライアン」と一緒だから。
目をそむけたくなるようなものだからこそ、
あえて見せるという。

ところで「ナルニア国物語」の原書買いました♪
チャレンジしたくなったら是非。

>ミコちゃん

久々の書き込み、嬉しいですo(^-^)o
文字化けは直ったのかな?
今、またなんか色々と
ココログのシステムが変わるみたいなので、
ちょっと不安・・・。

映画を観ていても人物が多くて大変だったので、
原作はさぞかし大変なことと思います。
確かに、映画を観てからの方が良いかも。

シネセゾン渋谷あたりでは、まだやっているみたいです。

救いのない物語だけど、
やっぱりジョン・ウィリアムスの音楽は
素晴らしかった~。

投稿: うっちー | 2006/03/28 23:31

うっちーさん
こんにちは

お忙しそうですけれど頑張っておられて偉いなぁと感心しています

「ミュンヘン」は私も見たいと思っていたのに見ることが出来ませんでした

いつも嬉しい情報をありがとうございます
ぜひ読んでみたいと思います

おからだを労わってくださいね

投稿: あけみ | 2006/04/01 15:38

>あけみさん

メッセージありがとうございますo(^-^)o

この映画は、なかなか強烈でした・・・。
目を覆いたくなる映像も多いので、
それらが大丈夫そうでしたら、
是非ご覧になってみて下さい。

原作の方は、どんな感じか分かりませんが、
やはり映画を観てからの方が分かりやすいかもしれませんね。
とにかく登場人物が多いので・・・。

最近なかなか更新できないのですが、
こうして励ましていただけて嬉しいです。
いつもありがとうございます。

投稿: うっちー | 2006/04/02 10:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/33616/9210742

この記事へのトラックバック一覧です: 「ミュンヘン」−監督の勇気:

« 「黄金の腕」 | トップページ | お悔やみ申し上げます »