« 「ソウ -SAW-」そしてakkyは・・・ | トップページ | のほほん »

2005/11/06

「ヴェニスの商人」

金貸しシャイロック。
冷酷無比な悪人の代名詞。

そう思っていました。

私が「ヴェニスの商人」を読んだのは、小学生の頃。
もちろん、易しく書き改められたものでした。
シェイクスピアは戯曲ですから、小説とは違って、
大人でも読みにくいと感じる人が少なくありません。
だから、読み返してみることもなかった私でした。

私の記憶では、シャイロック=悪人。
それ以外の何者でもなかった。
おそらくは、その子供向けの本にも
そういう描写しかなかったのだと思います。

有名な「人肉裁判」で、シャイロックはひどい奴だと思い、
アントーニオとバッサーニオの友情に感動し、
ポーシャの痛快な裁きに驚きの声をあげる。
指輪のやりとりにクスッと笑い、大団円。
私の中での「ヴェニスの商人」は、そういう作品だったのです。
完全なるエンターテインメントですね。

今回、映画を観てあまりの解釈の違いにショックを受けて、
自分の記憶が間違っているのかと思いました。
しかし、色々と調べてみると、あながち間違いでもないようです。
ウィキペディアによれば、
「ヴェニスの商人」は当初は「喜劇」だったとまで書かれています。

ウィキペディア「ヴェニスの商人」

キリスト教徒から見ればユダヤ人は絶対の悪であり、
「シャイロックの悲劇」に目を向ける人は、なかなかいなかったのでしょう。

パンフレットによると、
「嘲笑されるべき悪役」として原作に描かれているシャイロックが、
「悲劇的な主人公」として初めて演じられたのは、
19世紀のこと(演者はエドマンド・キーン)だそうです。
シェイクスピアが生きた時代は16~17世紀ですから、
随分と後のことになります。

今回の映画は、おそらくこの流れを汲んでいるのですね。

シェークスピアを演じなれている、
ジェレミー・アイアンズやジョセフ・ファインズに比べ、
演じることに畏れを抱いていたというアル・パチーノ。

彼の演じるシャイロックの叫びは悲痛で、
聞いているだけで胸が苦しくなり、涙を抑えることができません。
しかし、決して目をそむけることができない。
恐るべき力のこもった、演技とは思えない演技でした。

原作では悪役として描かれているシャイロックに、
観客は感情移入せずにいられません。

ラストでは、完全にシャイロックに同情している自分がいました。
信仰まで奪われてしまい、居場所がなくなるシャイロック。
キリスト教徒がユダヤ人を迫害したのが元凶なのに、
あまりにもひどい話です。

それにしても、視点が変わるだけでこうも話が変わるものかと、
ただただ驚きました。

シナリオの勉強をしていると、よく「桃太郎」の話が出てきます。
鬼退治に出かける桃太郎は、一般的にはヒーローですよね。
子供にも、そう話すはずです。
でもよく読むと、鬼たちは何もしていないのです。
「鬼が島には鬼がいるぞ」と言って、勝手に桃太郎が乗り込んでいく。
視点を変えれば、桃太郎こそが略奪者なのだと。

とてもよく似ていますね。
「ユダヤ人」も、「鬼」も、最初に「悪」と定義付けられているから、
そこに何の疑問も抱かれずに物語が成り立ってしまう。
恐ろしい話です。

現実世界にも、このようなことがいくつもあるような気がしてなりません。

自分も無意識のうちに・・・と考えると、
先入観の恐ろしさに身震いしてしまう私なのでした。

*****************************

あけみさんのレビューは、
分かりやすく綺麗にまとめてあってオススメです。

「ヴェニスの商人」

|

« 「ソウ -SAW-」そしてakkyは・・・ | トップページ | のほほん »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/33616/6956076

この記事へのトラックバック一覧です: 「ヴェニスの商人」:

» アル・パチーノの 『ベニスの商人』 [詩と映画と日記]
『ヴェニスの商人』原作 ウイリアム・シェークスピア監督マイケル・ラドフォードキャストアル・パチーノ (シャイロック)ジェレミー・アイアンズ(アントーニオ)ジョセフ・ファインズ(バッサーニオ)リン・コリンズ(ポーシャ)シャイロック(アル・パチーノ)アントニオ(ジェ...... [続きを読む]

受信: 2005/11/09 19:22

» The Merchant of Venice(2004,U.S./Italy/Luxemburg/U.K.) [The Final Frontier]
シェイクスピア作品は、Star Trek The Next Generationの中でもちょこちょこホログラムで出てきていましたが、実は本を読んだことは一度もありません。小学生の時『ヴェニスの商人』を一度だけ図書館で借りましたが、全然意味がわからなくて即座に挫折しました。約15年を経..... [続きを読む]

受信: 2005/11/09 19:44

» 「ヴェニスの商人」古典の初映画化 [soramove]
「ヴェニスの商人」★★★ アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジョセフ・ファインズ出演 2004年/アメリカ・イタリア・ルクセンブルグ・イギリス合作/130分 ヴェニスが舞台 ここは何百年と 時が止まったような街 ここにシェイクスピアの描いた 中世の...... [続きを読む]

受信: 2005/11/17 20:07

» ヴェニスの商人('04) [LA SPECTATRICE]
     かの文豪シェイクスピアの名作『ヴェニスの商人』の映画化とあってストーリーは誰もが知るところそのままだ。ただし、原作を読んだ後の読後感と、映画を観た後のそれには、決定的に違う種類のものがある。それは、シャイロックに対する同情、哀れみというものだ... [続きを読む]

受信: 2006/02/09 18:00

« 「ソウ -SAW-」そしてakkyは・・・ | トップページ | のほほん »