直木賞受賞作「肩ごしの恋人」
唯川恵氏の「肩ごしの恋人」文庫版がやっと出ました~。
直木賞をとってから気になっていて、けれど文庫になるまで待っていたのでした。
昔は純文学が好きだった私ですが、
社会に出て働き始めてから読んでいるものを振り返ってみると、
直木賞作家ばかり。偶然ですが。
それも、女性作家。
唯川恵をはじめとして、向田邦子、山田詠美、藤堂志津子などなど。
気に入るとその作家の本は読み倒すので、この方たちの小説はほとんど読んでいます。
こうして並べてみると、一概に「直木賞作家」と言っても、
かなり方向性が違うものだなあ、と思います。
私の中では向田邦子氏は別格です。
ダントツで面白いし、何度も読み返したくなる力を持っています。
特に、エッセイに関して言えば、他の3人は向田氏の足元にも及びません。
で、唯川氏に戻りますと、
この方の小説は、一番俗っぽいのです。
文学という感じじゃない。
例えば同じ恋愛を描いても、山田氏なら文学や音楽を感じるけれども、
唯川氏の小説からは感じられない。
だから、現代の女性にウケルんだと思います。
いわば、女性週刊誌のような面白さなのですね。
となりの恋愛事情を垣間見ているような。
あっけらかんと、ストーリーだけがさくさくと述べられていって、
けれどそれが不快じゃない。
この方の作品はほとんど読んでいますが、
人物の造形にだいぶ幅が出てきたなあと思います。
特に、この作品に出てくる「るり子」。
フェミニズムについて語る知人に向かって、
「フェミニズムを論じる女って、絶対ブスなのよね。」
と言いはなち、「何か悪いこと言ったかしら」と振り返るような、悪気のない女。
いそうでいないこんな女は、おそらく女に好かれます。
私は少なくとも、こんな友達がいたら面白いと思うな。
とにかく、なんだかさくっと読める小説でした。
唯川さんの小説は、いつも一気に読んでしまうのですが、
何度も読み返したくなるわけではないんですよね。
ストーリーの先は気になるけど、結末がわかったらもういいや、という感じ。
結構あざとい展開もあったりするのですが、思うに、
こういう方は小説家よりも脚本家の方が向いているのではないでしょうか。
って、余計なお世話ですけどね。
ドラマ化しやすいのは、とてもよく理解できます。
江國香織氏が解説を書いてらっしゃいましたが、この解説に文学を感じました。
「唯川恵の筆は梨でできているのではないか」
「あるのはみずみずしさと、どこまでもさくさくとした歯ざわりのよさ」
梨の筆という表現、なかなかできるものではありません。
言い得て妙。
うならされる解説でした。
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