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2005/01/29

直木賞受賞作「対岸の彼女」

対岸の彼女
対岸の彼女

ついこの間の、直木賞受賞作。

小耳にはさんでいたストーリーは、
「結婚して子持ちの勝ち犬と、仕事に生きる負け犬。
2人の女性の間の複雑な友情」
みたいな感じでした。

仕事にはりきる毎日で、プロポーズされたばかりの自分としては、
ちょっと気になるストーリー。
というわけで勢いで買ってしまったのですが。

電車の中で涙をこらえきれなくなるほど、
読んでいて切なく、リアルに胸に迫ってくる小説でした。
はっきり言って、上のストーリーとはかけはなれています。
少なくとも勝ち犬とか負け犬とか、そういう視点の物語ではないし、
そんなに安っぽい友情でもありません。

主婦の小夜子と、会社を経営する葵。
この二人を軸に物語は始まりますが、間に葵の高校時代の描写が挿入されます。
二つが交互に描かれていくのですが、
最初は高校時代がどう絡んでくるのか全然わかりませんでした。

それが、クライマックスに向かうにつれて、
ずっしりと現在に絡み付いてくるのです。
無駄な描写が一つもありません。


私はこの小説のどこにそんなに共感し、感動したのか、
冷静に考えてみました。

高校時代の葵とナナコ。
女子高出身の私にとって、この二人の友情はまるで過去の自分を見るようでした。
そして、「ここに私の大事なものなんて何一つない」と言い放つナナコにも。

私は群れるのが昔からとても苦手でした。
クラスには必ずいくつかの女子グループができあがるものだけれど、
私はそういったものに属することもなく、連れ立ってトイレに行くこともない。
当然、いじめられたこともあります。
そんなとき、思うのです。
「でも、ここに私の本当に大事なものなんて一つもないんだから、いいじゃない」

私は、本当に自分が好きで大切と思える人間と付き合いたかったし、
クラスで浮かないようにするための処世術なんてものはいらないと思っていました。

だから、数人の本当に仲が良かった女友達とは、とても深い付き合いだった。
ものすごい喧嘩もするし、何時間でも電話をするし、
電話をした後手紙を書いて、また次の日学校帰りにお茶をして、というような。

そして、群れが生息するクラスからそっと抜け出して、
校舎の屋上で青空を見上げるのです。

「ねえ、なんで私たちって、何も選べないんだろう」

その頃私は映画を作る学校に行きたかった。
一緒に空を見上げていた友人は、女優になりたいと言っていた。
しかし進学校にいた私たちは、当然「大学に行け」と言われるわけです。
「専門学校なんかに行くなら学費は出さん」と言われるわけです。

そして、私は大学に行きました。
その友人は、親に勘当されて上京し、
今はアルバイトをしながら舞台女優をやっています。


今考えれば、選べないわけではなかったのでしょう。
私も友人も、勝ったとも負けたとも思っていない。
けれど、自分の無力さに、大人の身勝手さに愕然とした経験は、
ほとんどの人の青春時代にあるのではないでしょうか。

昨年の芥川賞を受賞した綿矢りさ、金原ひとみ両者の作品よりも、
よほど青春時代の闇が浮き彫りにされていると思いました。

そして、闇で終わるのではなく未来に向かって終わるところがとても良い。

ラストではまた涙が止まりませんでした。

何度も読み返したくなる小説です。
これから先も、きっと繰り返し読むことになると思います。

未だに、給湯室やトイレでのおしゃべり、
連れ立ってのランチからは逃げ出してしまう私ですが、
心の聖域だけは守り続けて行きたいと、あらためて思ったのでした。

****************
他の方の感想ブログです。

直木三十五は、直木三十一だった(「まいどどうも。」さん)
↑男性の視点での感想が読めて、興味深いです。

はーど(「kaidou」さん)
↑もう一回大事に読みたくなるというところ、同感です。

対岸の彼女(「本の探検隊!ブック・レンジャーplus」さん)
↑タイトルの分析が面白い。私も負け犬って言葉、嫌いなんですよね。

『対岸の彼女』(「Grade3」さん)
↑そうそう、後味は良いですよね。私も、他の作品も読んでみたいです。

対岸の彼女/角田光代(「マシーン日記」さん)
↑読み応えがあるレビューでした。私も泣きましたよ。それはもう、ぼろぼろと。

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コメント

トラックバックありがとうございます。

対岸の彼女は…あんまり真剣に感想書かなかったので、ちょっと恥ずかしいです。
今度きちんと書いておきますね。

私にとっては、「柔らかい頬」の方が、インパクトがあったのです。

投稿: しまじゅん | 2005/01/31 13:43

>しまじゅんさん

ご訪問、ありがとうございます。

>あんまり真剣に感想書かなかったので

いえいえ。
「気持ちが解らないどころか、近くに似ている人物すら居ない」
という率直なコメントは、とっても新鮮でした。

多くの女性が共感するであろう人物像に、男性はこのように感じるのかあと、非常に面白かったですo(^-^)o
「実はそっくり」な人物がたくさんいるかもしれませんよ~(笑)。

しまじゅんさんのブログ、他の記事もいくつか読ませていただきました。
お子さんの話とか、とても楽しくて微笑ましいです。
これからもちょこちょこ覗かせていただきますね。

投稿: うっちー | 2005/01/31 21:38

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